無い物ねだり
「どういうことだ、それ?じゃあ、誰のせいだって言うんだ?」
と、おじさんは両手の手首をたらし、肩の高さまで上げた。テーブルにいた全員、彼の動きに釘付けだ。彼は鼻高々に言った。
「お、ば、け」
私は飛び上がりそうなほどドキッとした。お化けが『ものすごく』苦手だから。おじさんも同じ気持ちだったらしく、自ら話しを持ちかけたのに声を裏返して叫んだ。
「つったく、バカげでいるだろ。こんだけ科学が発達した時代に『お化け』なんかいるわけねぇだろ!」
「そうかなぁ、俺はいると思うけどなぁ」
「アキヒト、おまえここ最近仕事が忙しくて、そう言う話しを拒否出来ないくらい心が疲れているんだろ?」
「違うよ。源太が工事しているビルって、元々心霊スポットとして有名だろ。兄さんだって知っているじゃないか」
「ああ。そりゃ俺だって、よーく知っているよ。一回行ったこともあるしな。でもよ、俺が入った時は何も感じなかった。ただの廃ビルだった」
「兄さんは何も感じなかったけど、一緒にいった信二君は『変な声が聞こえた』って、大騒ぎしていたじゃないか」
「あいつ、女にフラれたばっかで、ショックのあまり頭が変になっていたんだよ」
「そんな事ないって!実際、源太も二度ほど女性が苦しげにウメいているような声を聞いたって言っていた。社員には、女性の霊をはっきり見たって言う人もいる。それで社長にあのビルの改装をやめるよう言ったんだけど、『やめない』って断言されて、しかたなく今まで工事をやっていたんだ」
「あったりめーだ!お化けに何が出来るってんだ!せいぜい人間を『キャー』って言わすぐらいなモンだろ。そのためにこちとら、金払ってお坊さんにお経あげてもらってんだ。大したことなんか出来ねぇよ!」
「出来るよ、お父さん」
「・・・!」
私と私のお父さん、お母さん、おじさん、おばさんがハッとして同じ方向を見た。
 みんな、親戚のお姉ちゃんを見ていた。お姉ちゃんは勝ち誇ったような顔で、私を見ていた。私は『しまった!』と思った。

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