無い物ねだり
父と母、おばさんが、私を助けようと慌てて駆け寄ってきた。レストランのウエイトレスも飛んできた。しかし私は倒れたままの格好で、しばらく動けなかった。格好悪いことに、幽霊の話の怖さに恐れおののき、すぐ現実へ戻れなかったのだ。
―まさに、筋金入りのお化け嫌いだ。そして高校生になった今も、それは変わらない。―
 私のいるクラスの教室は、二階の真ん中あたりにある。階段を上りきり右手に伸びる廊下を見れば、どの教室もやっぱり真っ暗だった。急いで電気をつけると明るくなりホッとしたが、教室の中は真っ暗で不安は収まらない。
(風亜も待たせているし。急ぐぞ!)
外のクラスの教室の中を見ないようにしながら、さらに足早に歩く。ほとんど走っているに等しい。すると心臓が早いリズムで鼓動を打ち、体が火照りだした。それは足早に歩いているからだけでない。『お化けが出たらどうしよう』と言う恐怖からも来ていた。
(マジ、出ないよね。いや、出ないでよお化けさん。あたし霊能力とか無いから、出てこられても何も出来ないから。キャーッ!って、ホラー映画に出てくる女優のようなリアクションしかできないから!)
恐怖のあまり、思考はすでにパニック状態。おまけに気にしないようにしているのに、考えないようにしているのに、怖くてやっぱりしてしまう。考えたら、かえって寄ってきそうなのに。
(す、少しでも変な事が起きたら、失神しちゃうかも…)
ふと、そう思った。
 ようやく自分の教室の前に着くと、呼吸を整えドアに手をかける。たかだか数十メートル道のりを歩いてきただけなのに、百メートル走を走りきった人のように呼吸が荒い。おまけにドアがピッタリとしまった教室の中は真っ暗で、怖さが倍増していた。
(か、帰りたいっ!)
しかし、帰ってしまえば宿題が出来ない。
(やっぱり取ってこないと、ダメだよねぇ…)
電気のスイッチは、ドアを開けて右手の壁にある。当然ドアを開けなければ、電気はつけられない。
 だが、開けると暗闇に隠れているお化けが襲ってきそうでやりたくなかった。

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