無い物ねだり
「待てって!俺はお化けじゃない!」
お化けは私の机攻撃をヒラリとかわすと、壁へ向かって全力で走った。私は負けじと再び机を持ち上げ、歩きながら近付くと、二撃目を喰らわせようとした。
 すると突然、室内の電気がついた。暗闇に慣れた目に蛍光灯の明かりは眩しくて、思わず目を細めた。だがすぐ驚きで目を全開に開いた。
 スイッチを押し、肩を上下させ、私の攻撃を待ちかまえていたのは、よく知った人だったから。
「新山君!」
「そうだ、自殺した霊なんかじゃないだろ!だから、その机をおろせ。俺は襲ったりなんかしない!」
言われるまま私は机をおろした。とたん、ホッとした。新山もホッとして壁に寄りかかった。
 しかし私は今度、小さな疑問を抱いた。
「こんなところで、しかも一人で何をやっていたの?」
新山は再びビクッと体を震わせ、気まずそうに視線をさまよわせた。ここに残って何かやましいことをしていたに違いない。
「ねえ、何をやっていたの?電気もつけないで」
「べ、別に何だっていいだろ!お前こそ、何をしに来たんだよ。部活終わったんだろ、さっさと帰れよ」
「忘れ物をしたから取りに来たの。そんなに怒らなくったっていいでしょ」
「怒ってねぇよ!」
「安心して、もう何をしたか聞いたりしないから。忘れ物を取ったらすぐに帰るわ!」
私は机を元に戻すとすぐ自分の机へ行き、中から教科書を取りだした。通学鞄の中へしまえば、さっさと帰ろうとした。嫌味を言われて気分が悪くなったから、出来るだけ早く教室を出たかった。
 そんな時、教壇の上に置いてある新山の荷物が目に付いた。通学鞄として使っている紺色のリュック、部活用品を入れている鞄、そして…空っぽのペットボトル。
「あっ…」
私はヒラめいた。なぜ新山がここにいたのか。




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