無い物ねだり
 昼の新入生歓迎会で失敗し落ち込んだ心を、一人で復活させようとしていたのだ。
(やっぱり!芸が失敗してヘコんでいたんだ!なのにあの時、無理矢理笑って場を盛り上げていたんだ)
自分の読みが当たって嬉しい反面、彼に『悪いことをした』と思った。悲しい気持ちを押し込めて無理に笑っていた新山を、笑っていた自分が恥ずかしかった。
 歓迎会が終わり会場の体育館から教室へ移動している最中、親友達は新山に『残念だったなぁ。でも、次がんばれば盛り返せるから』と言っていた。ただ、それと同時に『あれはあれで、楽しかったぜ。ヘコむなよ』と傷口に塩を塗っていた。新山はすごく落ち込んでいたのに…
(会場中の人が大爆笑していたから思わず私も笑っちゃったけど、自分がもし新山君だったら、逃げ出していたかもしれない。本当にヒドイことをしたな)
私は深く反省した。すると新山は荷物へ近寄り、慌ててペットボトルを通学鞄の中へしまった。
「早く帰れって言っているだろ!」
背を向けたまま言った。
「う、うん」
言われたまま、入ってきたドアへ向かい歩いた。新山が発した言葉に傷ついたと言うより、彼の背中が寂しげで反抗できなかった。
(でも、このまま立ち去っていいのかな。励ましの言葉をかけてあげたいな)
私はドアの前で歩みを止めると、振り返った。新山は眉間にシワを寄せ私をチラリと見ると、気まずそうに視線をそらした。
「早く…帰れって言っているだろ」
「帰るよ、言うことを言ったら」
「言うこと?『私、お化けがチョー嫌いなの。誰にも言わないで、一生の恥だから。じゃないと、ここで一人でヘコんでいたこと、みんなにバラしちゃうから』ってか?」
「別にお化けが嫌いなことくらい、知られても良い。そんな人、世界中に五万といるから。恥ずかしくもなんともない」
「ケッ!強気な女!」
新山はそっぽを向いた。予想が外れて悔しいらしい。そんな彼は妙に可愛かった。思わず小さく微笑んだ。

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