無い物ねだり
第三章
 新入生歓迎会の日から二日後。新山は母の作った弁当を飲むように食べると、昼休みの残り時間を利用して遊ぼうと、仲の良い友人数人と供にグラウンドへ飛び出した。サッカーをするためだ。
 新山はサッカー部員だが、サッカーが大好きなので部活でするだけでは物足りず、時間があれば仲間を誘って昼休みもプレーしていた。もちろん、遊びの時は細かいルールは抜き。楽しむのが目的だった。だから、最低二人集まればチーム分けし、休み時間が終わるまでガンガンやった。次の授業にはいつも走って滑り込んだ。
 今回集まったのは、隣のクラスメイトも会わせて十人。切りよく五人対五人で対決する事にした。ちなみに、サッカー部員は新山と進藤だけだったので、各チーム一人ずつ入る事にした。
「よーし、行くぞ!」
「新山ぁ、今日はぜってぇ抜かせないぞ!」
反対のフィールドで守っている、隣のクラスの大橋が大声で叫んだ。
 大橋は野球部だが、サッカーもそこそこうまい。いわゆるスポーツ万能という奴だ。ただ勉強は出来ず、そのあたりが新山と馬が合うらしく、転校して三日目の昼休憩からすっかり仲良くなった。今では晴れた日はグラウンドで、雨の日は体育館で、毎日のように対決していた。受験は何とかなると思っていた。
 試合開始のボールを蹴ったのは、新山だった。相手チームも新山のチームも一人づつゴールキーパーになり、残りは実働部隊になった。ただ、ポジションは決まっていない。なんとなく誰かが攻め、ゴール前を守る。人数が少ないので、一人で何役もこなさなければならなかった。
 案の定、ドリブルしてゴールを目指す新山に、進藤と同じクラスの伊藤が襲いかかってきた。ゴールまでまだまだあるのに。新山はこの二人を抜けば、ゴールまで誰にもジャマされない。楽勝でゴールできる。
 新山はわかっていて二人を楽々抜き去った。いつもプレイしているのでクセを見抜いており、抜くのはたやすかった。
「げっ、抜かれた!」
それに、部活の時はこうはいかない。三回に一回抜ければ上出来だ。その時の憂さをここで晴らす事ができ、新山はニンマリと笑った。
「俺はそうはいかないぞ!」


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