無い物ねだり
隣のクラスの泉だ。彼は野球部に所属し日々遅くまで練習に明け暮れているにもかかわらず、学年で三位の成績を誇っている。まさに秀才。文武両道。その秀才ぶりはスポーツにもいかされていた。
「くっそー、また泉に動きを読まれた!」
「田口に攻めさせるからだよ。あいつ単細胞だから、秀才・泉の裏なんかかけるわけないだろ」
新山の叫びに、泉と同じクラスの内山が呆れたように言った。何度られているのに、気づかない新山が信じられないのだ。
 ちなみに彼はスポーツ大好きだが、親が経営するコンビニエンスストアを手伝うため部活を出来ないでいた。その憂さを晴らすよう、新山や大橋達と昼休憩中にスポーツに熱中していた。
「よっしゃー。だったら、俺が取り返してやる!」
新山は自分に向かうようドリブルしてくる泉をニラんだ。泉は怯むことなく突き進んでくる。新山に止められない自信があるらしい。そして、その彼を追って田口が走る。顔が『取り返してやるーっ!』と言う気迫に満ちていた。
 しかし田口が追いつく前に、新山が立ちはだかった。泉は『来たな』とばかりにニヤリと笑う。だが、新山の左前には同じチームの鈴木がいる。新山が奪ったボールをパスしてくれるのを待っているのだ。泉には厳しい状況だ。
 それでも泉は不敵に笑う。笑ったまま鈴木の存在に恐れることなく、一人で新山を抜こうとした。
「泉、パスよこせ、パス!」
側まで来た大橋が叫んでもパスしようとしない。あくまでも一人で抜こうとする。
「おい、泉。無理するな。パスよこせ!」
続けてきた進藤の言葉も無視する。どうしても自力で抜きたいらしい。
 とたん、新山の右足がボールを捕らえた。泉が『あっ!』と驚いた次の瞬間には、ボールと供にゴールへ向かっていた。
「新山を追えーっ!」
大橋が叫んだ。すると進藤と泉がスゴイ勢いで走り出した。新山はそれを読んでいたのだろう、鈴木にパスした。鈴木は少しドリブルすると、田口へパスした。目にもとまらぬ速さだ。



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