無い物ねだり
 足の速い田口はドリブルしながらもグングン進藤と泉を引き離していく。ゴール前まで来れば、待っていた新山にパスした。
「ゴールキーパー、ぜっっってぇ止めろっ!」
大橋が叫んだ。しかし新山は『待ってました』とばかりにシュートした。強烈なシュートを。
 ボールは制服が汚れることを恐れず横っ飛びしたゴールキーパーをあざ笑うかのように、鮮やかにゴール右隅へ突き刺さった。
「あーっ!」
「いやったぁーっ!」
とたん、大橋が落胆の声を上げ、田口と鈴木が歓声を上げた。
「イェーイ!さっすが新山!」
「キャプテン、たよれるぅ!」
そして田口と鈴木は新山に走り寄ると、肩を力一杯叩いた。
「だからパスしろって言ったじゃん!」
対し、大橋は泉に向かって怒った。泉は舌をベロリと出して頭の後ろをかいた。
「スイマセン」
「俺を自力で抜こうなんざ、百年早いんだよ!」
「いいや、継続は力なり。次は抜けるかもしれないぜ。油断するなよ新山!」
しかし何度やってもうまくいかず、今日も泉の惨敗だった。全員グラウンド脇にある草の上に座ると、『つかれたー』とため息混じりに叫んだ。
 結果、試合は5-3で新山チームの勝ちだった。
「そう、落ち込むなって泉。明日は勝てるかもしれないだろ」
「でも、マジくやしぃー!理論通りにいけば、絶対抜けるはずなのに」
「誰の理論?野球部のお前がどっから引っ張ってきた理論だよ」
「天才、ロナウジーニョ様のだ」
「はっ?」
「彼のサッカーセンスはバツグンだ。だから、彼のサッカーをマネすれば、俺も楽勝でmぬけると思ったんだ」
「そりゃ、基礎があってのモンだろ。遊びでカジっている泉には使えねぇ。もっと地道に行け!」
「今日はそうかもしれないけど、毎日やっていれば出来るようになるかもしれないだろ。俺は絶対あきらめないからな」


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