無い物ねだり
(だいたい、あそこまで言われる筋合い無いよ。神様にだって言われたことないんだから。私と同じ年月しか生きていないのに、偉そうなこと言うんじゃないわよ。ただのサッカーバカのクセして。文句つけるな!)
私は怒りを吐き出すよう全力で走ると、学校の正門へ続く坂道をノンビリ上がっている徒歩通学生をガンガン追い越した。ごぼう抜きだ。すると少し気分が晴れた。ストレス発散に体を動かすのは良い。誰にも迷惑かけずにできるから。
(よーし、今日も泣き寝入りせず真っ向勝負を挑んでやる。覚悟しなさい、新山一成!)
快調に坂道を登り切ると、そのままの勢いで正門を抜け正面玄関へ向かった。額を流れ落ちる汗まで爽快に感じた。
 いつも通り朝練を終えた私は、汗だくのハーフパンツとTシャツを脱ぎ、セーラー服に着替えた。制服は一週間前から夏仕様に替わった。半袖で白いサラサラの生地は一汗かいた肌に心地良い。気分もキリッと変わった。レモンライムの香りがする制汗スプレーをざっとかけ、勉強道具の入った鞄や着替えの入ったビニールバッグを持てば、親友が着替え終わるのを待った。
「涼ちゃん、もうちょっと待ってね」
「うん」
親友の名は、福原風亜(ふくはら ふうあ)。百七十七センチある高い身長に、ガッチリした体型とショートヘア、丸顔に一筆書きしたような細い目がとても印象的だ。目は笑うとさらに細くなり、閉じているように見える。ちなみに身長は未だに伸びていて、このまま行けば百八十センチも夢でなかった。
 そんな彼女は一見怖そうに見えるが、自営業を営む両親の元、五人姉弟の長女として育ったせいか、優しくて面倒見が良い。
 私は今まで彼女にずいぶん助けてもらった。
 風亜は小学生時代私と同じミニバスケットのチームに所属し、初の全国優勝へ導いた。選手として活躍していたのはモチロン、とにかく部員の様子に気を配ってくれた。
 私は、小学三年生からミニバスケットを始めた。ミニバスケットは私に合っていたらしく、あっという間にうまくなり、レギュラーメンバー入りした。北海道地区では名プレーヤーとして名をはせた。そして、六年生になった頃、実力を買われキャプテンに昇格した。


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