無い物ねだり
第四章
 放課後、部活動をするため体育館へ向かう途中、同じ三年生の女子バスケット部員四人と合流した。私は彼女達の横に並ぶと、彼女達が朗らかに笑いながら話すのを複雑な気持ちで眺めていた。話しかけられれば答え、自分から発言する事はない。しかし、誰もバカにしたり冷たくあしらったりしなかった。
 無口な私を認めてくれていた。
 そのまま体育館へ着くと更衣室に入り、先に来ていた風亜や他の同級生部員達と『こんにちわ』と挨拶した。練習用の半袖Tシャツと黒いハーフパンツに着替えると、小走りで体育館へ行き用具の準備をし終えた一年生に労いの言葉をかけ、心の中で今日の練習目標を決めた。そして体育館を見渡した。
 この中学校はスポーツに力を入れているため、体育館がとても広い。バスケットのコートを四つ取れる大きさだ。今のところ、バレー部とバスケット部、供に男子部と女子部があるので、四つの部で四分の一スペースづつをシェアして使っている。創立以来このシステムでやって来ているらしいが、今のところ、特に文句は出ていない。
(さて、準備は出来た)
時計を見れば、練習開始までまだ十分もあった。部員の姿もまばら。多くは今、着替えをしている最中なのだろう。
(よーし、せっかくだからスリーポイントシュートの練習でもしようかな。だって、もっとウマくなりたい!)
カゴの中からボールを一つ取り出しダンダンと二度つくと、軽くドリブルをしたままコート右側の縦長のライン、サイドラインに立った。ゴール下に誰もいないのを確認すれば、勢いよく走りながらドリブルした。
 一番目だから、みんなが私を見ていてちょっと照れた。しかしボールがダンダン!とリズミカルに床を打ち、頬や肩が風を切り、髪やTシャツが風をはらんでフワフワ揺れると、気持ちよくて嬉しくなった。足がスリーポイントラインの前で止まれば、両膝を出来るだけ曲げた。パワーが貯まれば、白い板を黒で縁取ったバックボードめがけてボールを放った。
 キレイに弧を描いたボールはボスッと音を立てて、ネットの真ん中に飛び込んだ。


< 41 / 214 >

この作品をシェア

pagetop