無い物ねだり
「ナイスシュート、涼ちゃん!」
「いいなー、私も練習しよう!」
「あっ、私も練習する!」
背後から元気の良い声が聞こえてきたかと思うと、ダダダッと数人の足音が近付いてきた。振り返ると、風亜を含めた三年生のバスケット部員五人が、私がスタートしたサイドラインをスタート地点に列を作っていた。私はニヤリと笑い『負けないぞ』と心の中で呟くと、ゴール下へボールを拾いにいった。
 しかしスタート地点に戻ってくると、いつの間にか三年生の部員全員である十七人が並んでいた。人がやっているのを見て、うらやましくなったらしい。みんなテンポ良くシュートを撃っているが、人数が多いので体を温めるほど撃てそうになかった。列の一番最後に並ぶと『あと何本撃てるかなぁ…』と思い、悲しくなった。わかってはいたが、できるだけ沢山撃ちたかった。
 ただ彼女達を見ていたら再びあの疑問がわき、思わず考えた。
 一年生でベンチ入りしているのは私を含め半分ほどだが、誰もイジめたりしない。良いところはホメてくれるし、沢山練習した上で正々堂々と勝負を挑んでくる。
 新山のように冷たくけなす人は誰もいなかった。
(口数が少なくて無表情に近いのは、そんなに悪い事じゃないのかな…)
部活動をするたび思う。ただ本音は聞けないでいた。新山と同じように思っているかもしれないと考えると、傷つけられそうで怖かった。
 十分ほどシュート練習をしたら、一、二年生が顧問の恩田先生と供に集まって来た。恩田先生は授業とはうってかわってアクティブな格好をしていた。長い髪は後ろで一つにまとめ、白いTシャツと赤いジャージのズボンを履いている。ぐっと若返ったように見えた。
「ちょっと早いけど集合して!」
彼女のかけ声で女子バスケット部員全員が集合し、私達三年生を先頭に、二年生、一年生と半円を描いて並んだ。部員は、五十人を超える。しかし誰も私語を話そうとしない。みんな真剣な顔で先生の言葉を待っていた。
「今日も、いつも通りの内容で行きます。全国大会までまだ二ヶ月以上ありますが、宿敵T大附属を倒すためにも気を抜かないで最後まで行きましょう」


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