無い物ねだり
 Aチームでキャプテンの村井と、Bチームで二年、センターの秋山が、センターサークルに入ってくると、一年生の小沢がボールを持って二人の脇に立った。彼女がこの試合の開始を告げるらしい。村井、秋山両方を見れば、『準備はいいですね?』と目で合図した。
 二人がうなずけば、ボールを下手から投げた。
「ティップ・オフ!」
小沢が言ったとたん、ボールは真上へ放たれた。
 バコン!とボールを叩く鈍い音がしたかと思えば、私の所属するAチームの村井がボールをたたき落とし、センターサークルのすぐ側に立った三年生の井川が取った。身を翻せば、早いスピードでドリブルしながらゴールへ向かい走った。
 コートの左側にいた私は弾かれるよう走り出した。村井が走っている反対側を、相手チームのディフェンスをかわしながら。今いるチームは、村井と私がメインで点をとらなければならないので、二人とも出来るだけ違う位置からボールを集め攻めなければならなかった。
 しかし相手も十分わかっていて、ボールを持っている村井の前に田中が、私の前に戸塚が現れ、止めに来た。早い動きに村井もボールを取られないよう必死だ。
(戸塚、あいかわらず良い動きしてる。…でも、負けない。私はもっと上を行く!)
ライバルに闘争心を刺激され、見せつけるように高度なフェイクで左から抜く。戸塚の『やられた!』と言う顔がたまらない。私は嬉しさに口元をニヤリとさせながら、村井の側へ行こうと走った。点を取るのは一人より二人の方が楽だから。
「漆原!」
村井も同じ気持ちでいたらしく、すぐ側まで来るとパスしてくれた。追いかけてきた戸塚がパスカットしようとしたが、追いつかない。私が素早い動きで振り切った。
 しかし戸塚は引き下がらない。どうにかしてボールを取ろうと食らいついてくる。
 ダメ押しに、もう一人後ろから襲いかかってきた。今にも取られそうだ。パスを出したいが村井にもマークが二人着いていて、受け取るのは難しそうだった。



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