無い物ねだり
 代わりに練習試合の合間、休憩中にジロジロ見てやった。休憩時間がずれているため、練習中の彼は気づかない。一人で勝手に闘志を燃やすばかりだったが、少し満足した。
 それなのにまた視線を感じ、あたりを見回した。『新山は練習中だから見る暇が無いはずなのに…』と疑問を抱きながら。
 とたん、ある人と目が合いドキッとした。恩田先生だ。視線の犯人は彼女だったのだ。
(ヤバイ、気づかれた!気をつけなきゃ、また文句言われる!)
私は慌てて視線をそらし、同級生の輪の中に混じった。
 全国大会を控えた今、問題を起こす事は御法度だ。もし不祥事を起こせば『スポーツマンらしくない行為』と見なされ、チーム全員が連帯責任を取り出場権を取り上げられてしまう。必死の思いでしてきた練習は、全て水の泡になってしまうのだ。
 それはとても辛くて悲しい事。絶対避けなければならなかった。
 そんな中、新山とモメている私は危険因子。不祥事の爆弾を抱えている要注意人物。先生はちょっとでも怪しい動きをすれば、目を摘もうとしているのだ。
(先生の気持ちはわかるけど、泣き寝入りするのはイヤ。みんなに迷惑がかからないよう気をつけるから、せめて影では戦う事を許して下さい!)
私は思いを新たに闘志を燃やした。 
 それからしばらくの間、私と新山の勝負はどっちつかずのまま日だけが過ぎていった。気が付けばカレンダーの月は変わり、北海道も夏本番を迎えた。
 皆、短い夏を楽しもうと、海水浴に花火、キャンプと、沢山企画を立て人生を謳歌していた。今ひとつなのは、中学生や高校生など、学校に通う人達だろう。期末テストを一週間後に控えた私達学生は、浮き足だっている暇はなかった。
 ここで赤点を免れなければ、夏休みは補習授業を受けなければならない。遊ぶ時間どころか、部活をする時間も削られてしまう。全国大会を目前にして、それは大変困ることだった。


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