無い物ねだり
 …しかし、口数が少なく表情の起伏が乏しいせいか、同級生や後輩に『普通に接しても怒っている』と誤解され、うまくいかない時期があった。そんな時、風亜は何度も間に入り円満に解決してくれた。中学に来ても様子は変わらない。残念ながら選手層の厚さに阻まれ出場メンバーには入れてないが、今も私と同級生、はたまた後輩や新山との関係を良くしようとがんばってくれている。風亜には助けてもらってばかりだった。
(感謝しているよ、風亜。でも今は、恩返しができない。いつか必ずするから、それまで親友でいてね)
着替えをすませ荷物をまとめている風亜の横顔を見ながら、心の中で強く思った。
「さ、行こうか。早くしないとホームルーム始まっちゃう」
「そうだね」
体育館の更衣室を出ると、足早に歩き出した。
 全道大会を勝ち抜き優勝した我がチームは、今年こそ全国大会で優勝するため、登校時間の一時間前に毎日練習していた。優勝するためには、さらに練習をしてレベルアップしなければ全国の強豪校を蹴散らすことはできない。放課後の練習だけでは時間が足りなかった。
 体はキツかったが、心はヤル気に満ちていた。新山の件を除けば、今日も朝から充実していた。
 バスケットシューズから学校指定の上履きに履き替えるため、正面玄関にある下駄箱へ向かった。廊下を歩くのは女子バスケット部員だけなのだが、いやに賑やかだ。見れば彼女達はケラケラ笑い、話しながら歩いている。疲れはみじんも感じさせない。すると、彼女達に負けじと風亜も話し出した。闘争心をくすぐられたらしい。
「涼ちゃん、すっごくスリーポイントシュートが決まるようになったね!」
「うん。沢山練習したからね」
「ミニバス時代の成功率も高かったけど、今じゃ、かすんで見えちゃうね。絶対、全国大会で強力な武器になるよ」
「そうだね。これからはさらに高い確率で決まるようがんばる。そしてT大附属を必ず撃破する!」





< 5 / 214 >

この作品をシェア

pagetop