無い物ねだり
第五章
 朝、午前五時四十五分。目が覚めるとまぶたが腫れぼったく、顔がむくんでいた。頭も重く、軽く頭痛がした。
(最悪のコンディションだ)
今日も朝練があるのに、まったくヤル気が起きない。おまけに失恋の傷は癒えておらず、心と言う傷口から血をダラダラと流していた。
(全国大会を目前に控えているのに、落ち込んでいる暇なんてない。体を引きずってでも学校へ行かなきゃ!)
『よっこらしょ』と、おばあちゃんのように体を起こし、ひとまずベッドの上に座る。気が付けばカーテンは開けっ放しで、曇りながらも朝の光が室内に差し込んでいた。窓を開け外の空気を吸うと、いくぶん気分がすっきりした。
(ひとまず、新山の事は考えないようにしよう。今はバスケットと期末テストに集中しなければならないんだから。気を取られている暇はない。期末テストは特に大事。バスケットの練習に集中するためにも、赤点は絶対取れない。よーし気持ちも新たにがんばるぞ!)
考えが固まると、勇気が沸いてきた。
 必ずこの試練を乗り越えてみせると決心した。
 キビキビと顔を洗い身支度を整えて茶の間に行くと、母が心配そうな顔で私を見た。私は無理矢理軽く微笑むと、出来上がったおかずを茶の間に運ぼうと、焼き魚の載った皿を手に持った。
「おはよう」
「おはよう、涼。…大丈夫なの?」
「何が?」
「昨日…その、泣いていたでしょ?ずーっと。いつも通り起きてきていいの?」
「大丈夫だよ。ま、ちょっと色々あったけど、もう解決したから。それに、全国大会が近いんだもの。副キャプテンが寝込んで何てなんていられない。たとえ嫌な事があってもヘコんでいられないよ」
「涼がそう言うならいいんだけど…」
「さ、今日も朝練があるんだ。しっかり食べてガンバらなきゃ!」
小さく笑って焼き魚の載った皿をテーブルへ運んだ。そのあと自分の分のご飯や残りのおかずも運ぶと、急いで食べた。


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