無い物ねだり
心の中に青空が広がる。
(…そうよ、今のままでダメなら、もっと練習すればいい。沢山、みんなの二倍三倍と練習すればいいんだ!)
太陽も顔をのぞかせた。
 次の瞬間、スリーポイントエリアで放ったボールが、今までのように美しい弧を描いた。そしてオレンジ色のリングの真ん中に落ちた。サクッと音を立てネットをすり抜ければ、真下に落ちて二度バウンドした。
「な…ナイスシュート!」
風亜の嬉しそうな声に、私は我に返った。そして、胸一杯に広がる安堵感を覚えた。
 スランプとしては小さなものだったが、生まれて初めてのそれは、死に値するほど怖い物だった。振り切れかけている今、とても幸せな気持ちになった。
 がぜん、やる気が出てた。
 朝練を終えると、手際よく着替えた。風亜が支度し終えれば、一緒に体育館を出て正面玄関へ向かった。玄関に着いた時、昨日青ざめたのを思い出しドキッとしたが、すぐ前向きな気持ちになった。
「涼ちゃん、顔色が悪いよ。保健室へ行かなくていい?」
「うん、大丈夫。さ、行こう」
「ねえ…もしかして、新山君と何かあった?」
「・・・!」
突然の質問に、つい体をビクッと震わせてしまった。
(しまった!気づかれてしまう…)
「あったんだね。…あたし、文句を言ってやる。大切な友達をイジめるなんて許せない!」
「違う!違うの、風亜。新山君のせいじゃない。だから怒らないで」
「でも、新山君が絡んでいるんでしょ?直接手を出していないにしても、涼ちゃんをこんな目に遭わせて。タダじゃおかないわ!」
「待って、風亜!」
私は風亜の腕をつかんだ。風亜は鼻息も荒く振り返った。
「新山君は手を出していないし、こんな風になったのは私自身のせいなの。新山君にあたらないで」




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