無い物ねだり
「何言っているの、涼ちゃん。どっちにしたってアイツには一発ガツン!と言ってやらなきゃ。これまでさんざんな目に遭わされているんだから。今回、たまたまそのチャンスが来たってだけ。直接新山君が絡んでいなくったって関係ないわ」
「落ち着いて、風亜。そのことなら私が時間を見て話し合うから。今は私の言う通りにして」
「イヤ。親友がどんどん弱っていくのに、見捨てる事なんでできない」
「ちょっと、風亜!」
風亜は私の手を振り払うと、私のクラスへ向かって走り出そうとした。私は慌てて風亜の手をつかむと引き留めた。これ以上、新山とモメたくなかった。
「涼ちゃん、放して!」
「放さないよ、私の言うとおりにするって言うまで」
「じゃあ、夜も眠れないくらい辛い思いしている親友を、見殺しにしろっていうの?」
「見殺しじゃないよ。時期が来たら手伝って欲しいの。今はその時期じゃないって言ってるだけ」
「私、ゴールがわからないとイライラするの。イライラしたままだと、絶対新山君をこてんぱんにやっつけるわ。私が納得するようなゴールを教えて」
「それは…」
私は必死に考えた。失恋の痛みがいつ引くのか、そんな事ぜんぜんわからない。だって初めての失恋。初体験なのだ。何とコメントしていいかわからなかった。
 黙りこくっていると、風亜はハアとため息をついた。
「もう、わかったわかった」
「え?」
「涼ちゃんが新山君を『やっつけて』って言うまで、やっつけにいかない。ガマンして側で見守っている」
「風亜…」
「でも、これ以上ひどくなったらガマンしないからね。涼ちゃんがいくら『やめて』って言ってもやめない。覚えておいて」
「ありがとう」
「じゃあ、教室行こう」
「うん」



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