無い物ねだり
T大附属中等部は、わが校最大のライバル。関東ブロック最強のチームで、何度も全国大会で優勝している。そして、私が入学した頃からわが校は全国大会へ出場できるようになったのだが、二年連続、T大附属に決勝で敗れている。それも僅差で。ボロ負けじゃないのがすごく悔しかった。
 だから今年こそ、卒業する今年こそ、ぜっっっっっっったい!倒したかった。
 そんな私の思いを知ってか知らずか、風亜はニコニコしながら言った。 
「ヒャーッ!…ってことは、スリーポイントシュート百パーセント成功しちゃうかもしれない?」
「しちゃうよ」
「ウハハ!さすがクールなスリーポイントシューター!サラリとすごい事言ったね」
「そうよ、強気が私の最大の武器だもの」
「よーし、私は新人戦でレギュラーメンバーに入れるようがんばるぞ!」
風亜はバスケットボールを楽につかめるほど大きな手で拳を作ると、ガッツポーズした。それを見ていたら、私まで気合いが入った。
 しかし正面玄関が見えたとたん、気合いが緊張感に替わった。体も臨戦態勢に入る。
 午前八時をだいぶ回った正面玄関は、登校してきた多くの生徒でザワめいていた。皆一様に、外履きから学校指定の白いスクールシューズに履き替え、それぞれの教室へ向かっていく。
 私は自分の下駄箱の前に立ち、バスケットシューズからスクールシューズに履き替えつつ、周囲の様子をチラチラとうかがった。
―新山一成の姿が無いかどうか、確かめるために。―
 彼はいつも、午前八時三十分頃に教室へ入ってくる。逆算すると、ここに着くのは八時二十分頃のハズ。普通ならまだ着いていない。しかし、もしかすると今日は早く来ているかもしれないと思い、注意深くあたりを見回した。
 見つけたら、先制のジャブを食らわしてやるつもりだった。
 だが、彼の姿は見つからなかった。フゥと小さく息を吐けば、次の戦いの場へ向かおうと一歩を踏み出した。
「新山君、いなかったね」
「あ、うん」

 




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