無い物ねだり
 一生懸命な新山を見ていたら、片平さんの顔が浮かんだ。そして、小さな疑問を抱いた。
(登校してくるのは一緒だけど、帰りは片平さんと別々なのかな?彼女は週に三回ほど学校が終わった後、街中にあるバレエ教室でレッスンを受けているはず。レッスンがある日は授業が終わったら、すぐ行かなければ間に合わないって、新山の親友が話していた。とても新山の部活が終わる夕方まで待っていられない。…ああ、そうか!レッスンが無い日だけ待っているのかもしれない。つきあい初めは何時間でも待っていられるって言うし)
頭の中に、二人が並んで笑顔で話しながら帰る姿が浮かんだ。ラブラブな様子に、私の胸はキュウッと苦しくなった。
(そんな簡単に、フッきれないか…)
繰り返しわき上がる切なさに彼への思いの深さを再確認し、またため息が漏れた。
 午後七時。部活が終わると、私達三年生は後片づけを一年生に任せ着替えた。帰宅するため外へ出れば外はすっかり暗くなっていて、まだ小雨が降っていた。
 全員傘置き場に置いてあった傘を差せば、正門へ向かった。坂の下までは道が一本しかないので、そこまでは全員一緒に行かなければならないのだ。
 私は一人正面玄関のたたきの上に立つと、『じゃあ、また明日』と言ってみんなを見送ろうとした。数学の先生に解き方を教えてもらいたい問題があるとウソをついて、一人居残り練習をする事にしたのだ。
 再びバスケットを楽しくするために。もちろん、誰も私の真意は知らない。
「涼ちゃん、やっぱり私終わるまで待っているよ。暗いから一人で帰るの危ないでしょ」
風亜は私の思惑に気づいたのか、一度外へ出たのに戻ってきた。
「いいよ、いつ終わるかわからないし」
「…ねえ、本当に数学教えてもらうの?何か隠れてやろうとしていない?」
「・・・!」
風亜はコソッとつぶやいたのだが、私は真意を見抜かれたと思いすごくドキッとした。平静をよそおえるか心配だった。
(本音がバレませんように。本音がバレませんように!)

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