無い物ねだり
 体は疲れていてとてもダルかったが、胸の中にみなぎる熱意がヤル気を復活させてくれた。与えられた一時間では、とても足りないくらいだった。
 移動中の廊下も体育館も薄暗く、無人だった。他の部活もすでに終わっていて、全て生徒は帰っていた。
 誰もいない体育館は、とても広くて不気味だった。
(大嫌いなお化けが出てきそう…)
バスケット部で使っている場所のみ照明をつけると、恐怖心をはねのけるよう更衣室で素早く着替えた。自主特訓することを考え、今日は着替えのTシャツを多めに持ってきていた。汗でビショビショに濡れた服を着て練習すればカゼをひくし、嫌な匂いをかげばテンションが下がると思ったのだ。
 体育館に戻りバスケットボールが山盛りに入った鉄のカゴを出してくると、一人スリーポイントラインの前で立ち集中力を高めた。秘密特訓の最大の理由は、スリーポイントシュートの成功率を戻すため。得意技を持たずして全国の壁を破るのは絶対に不利だから。
(必ず以前の自分に戻ってみせる。T大附属を倒すためにも絶対戻ってみせる!)
ボールを一つ取りダンダン!と二度床にたたきつけバウンドさせると、額の前で構えた。呼吸を止めれば、ゴールめがけてボールを放った。
(入れ!)
しかしボールはリングにあたり、ネットに収まる事なく床へ落ちた。
(おしい、もう少し!)
再びボールを構えると、さきほどより少し多く力を入れて放った。今度はリングを取り付けているバックボードにあたり、下に落ちた。
(まだまだ!)
何度もボールを構えショットを撃つ。すると五本目で、リングにもバックボードにもあたらず、ボスッと音を立てて入った。
(入った、一本入った!)
ここ数日間ほとんど決まらず焦っていただけに、一本でも決まると嬉しかった。ますますヤル気がみなぎった。
 何度かショットを打っているうち、コツを思い出したのか、三本に一本の割合で決まるようになった。描く弧のラインも整いだし、リングにあたるギリギリで入っていたのが、真ん中を通過するようになった。


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