無い物ねだり
第六章
 とある日の昼休み。いつものように外でサッカーをしようと集まったメンバーは皆、新山の言葉を聞いてあっけにとられた。
「片平さんと、まだ一回も一緒に帰った事がない?」
「ああ」
「何で?せっかく付き合いだしたのに。寂しくないのか?」
「ぜんぜん」
「ありえねー!」
大橋を筆頭に、四人でハモった。残りの三人は、『おかしい』とか『考えられない』と言って頭を左右に振った。
 そんな彼らを尻目に、新山は少しも動揺せず、ポケットから携帯電話を取り出すと時間を確認した。
「早くサッカーやろうぜ。時間無くなっちまう」
「ちょっと待て新山」
「今度は何だ?」
「そうウザがるなよ。俺達は友達としてお前を心配しているんだから」
大橋は新山の肩を真正面からつかむと真剣な顔で見た。
「片平さんをちゃんとかまってあげないと、寂しくて他の男に目が行っちゃうかもしれないぜ」
「別に。いってもかまわねぇよ」
「余裕だねー!あ、それとも。片平さんレベルの女じゃ満足できねぇ?もっと上がいい?」
「だとしたら、新山。お前はこの学校の男子生徒九割を敵に回す事になるぞ。彼女はわが校で、いや、札幌市の中学校で五本の指に入るかもしれない美少女なんだ!さらに上を望むなど、並の女子さえつかまれられない俺たちにケンカを売っているとしか思えん!」
しかしいくら言っても、新山の態度は変わらない。毎日学校の正門前で片平と合流し、一緒に登校する。二人が恋人として会話を交わすのは、正門から教室の前まで。分かれる時は、サッパリしている。付き合いだしたばかりの熱い感じは全くない。そして教室に入れば、私にヒドいちょっかいを出した。片平をさらに奥にある教室まで送っていこうとはしなかった。
 もちろん、片平は面白く思っていなかった。



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