無い物ねだり
 ある日の帰り、新山の部活が終わった後二人は珍しく一緒に下校し、学校から七百メートル離れたところにあるファストフード店へ行った。付き合い出したばかりのカップルなら、側にいる人が目を背けたくなるほどイチャイチャしているものだが、この二人は倦怠期のカップルのように重い空気を発していた。
「ねえ、新山君。私って魅力がない?」
「え?いや。すごくあると思うけど。そう、学校で美少女コンテストを開いたら絶対一番になるくらい!」
「じゃあ、もっとかまって。私と一緒にいて。朝通学するだけじゃなくて、お昼も一緒に食べて。土日は一緒に映画を見たり、遊園地とか行って欲しい。デートして欲しいの!」
「…ごめん、今、期末テストが近いからできない。俺、頭悪いから、必死に勉強しないと夏休みに補習を受けなきゃいけなくなると思うんだ。夏休みまで勉強なんかしたくないから、テストで赤点取らないようにがんばらないと。今はこれで限界なんだ」
「じゃあ、期末テストが終わったらして。時間できるでしょ?」
「え?いや、その…」
「…新山君、もしかして好きな人がいるの?」
「ま、まさか!いない、ぜんぜんいない!」
「だったら私をもっと好きになって。ほかの女子なんか見ないで!」
「あ、ああ」
「ちょっかいも出さないで」
「う…ん」
新山は暗い表情でうなずいた。学校一番だろう美少女に見つめられ手を握られても、いっこうに浮かない表情だった。
 心にわだかまりをかかえたまま、解消するすべを模索するばかりだった。

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