無い物ねだり
第七章
 期末テストの一週間前まで、私は秘密の特訓を続けた。
 体はいつにも増してヘトヘトに疲れたが、スリーポイントシュートの成功率はあがり、心は満ち足りた。新山の意地悪な仕打ちも復活したが、今までのように…いや、それ以上に軽くあしらってやった。
 テスト前の休み期間に入ると、放課後の学校は静寂に包まれた。教室や図書室に多くの生徒が残り勉強していたが、小声で話すので賑やかとは言えない。
 テスト前休み二日目。女子バスケット部に所属する一年生は、私を含め五人が風亜のいるクラスの教室に集まった。今日は数学と理科を攻めるつもりだった。もちろん私達も他の生徒の邪魔にならないよう、小声で話した。
 しかしいつもは、一つの体育館で四つの部活が賑やかに活動する中にいるので、小声しか聞こえないのは寂しかった。プレーが決まりワアワア言う声や、ボールの跳ねる音、シューズが床を蹴る音がひどく懐かしい。
(そう言えば、新山君と片平さんは、新山君が部活休みに入ったから、一緒に勉強するつもりなのかな?一緒に帰るつもりなのかな?昨日片平さんは教室にいなかったみたいだけど、新山君と親友数人は残って勉強していたもの。可能性はあるよね)
勉強の手を止め、一人心をザワザワさせながら考えた。だが何度廊下を見ても、新山の姿も片平の姿もなかった。その後、順調に勉強を終えると、いつもよりずっと早い午後五時頃帰宅した。
 家に着くとすぐ私服に着替え、今度は自分の机で夕飯を食べる午後七時頃まで勉強しようとした。大分煮詰まっているので気分転換にランニングでもしたかったが、本当に赤点ギリギリの成績なので、そんな事をする暇はなかった。
 …と思いきや、英語の長文を読み始めて間もなく、とある誘惑に駆られた。
(昨日の晩、錦屋アキラ君が出ているドラマを録画したんだ。今日学校から帰ってきたら見ようと思っていたんだよな。…うぅーっ、見たい。見たいっ!二時間のスペシャルドラマだから、一時間でいいから見たいな。勉強の疲れを癒したいっ!)



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