無い物ねだり
錦屋アキラは、二年前にデビューしたイケメンアイドル。主に歌手での活動がメインだが、俳優もこなすなど幅広い活動をしている。大ブレイク中の今は、毎日どこかのチャンネルで必ず見かける。
 私はそんな彼の大ファン。リアルタイムで番組を見れる時も録画し、その後彼の出ているシーンだけを何度も見返しうっとりする。ファンクラブにも入会しようと思い、会費を払ってくれるよう母を説得中だ。外見は男並みに大柄でも、心はちゃんと乙女なのだ。
 だから、彼の出演しているドラマが見たい。ものすごく見たい。そして癒されたい!
 私は心の中で嵐のようにわき起こった強い衝動と必死に対峙した。
(でも、マジで赤点ギリギリなんだよな。今の私には、一時間でさえ貴重な時間。勉強につぐ勉強をしなきゃいけないんだよな。でも…)
頭の中に、今日風亜達とやった勉強のシーンが浮かぶ。
(自分で言うのもなんだけど、今日のアタシ、本当にがんばったよね。授業中なんて、いっつも睡魔に襲われてうたた寝しているのに、今日は食い入るように教科書を読んで、問題を解いた。山かけだけど、沢山解いた。右手の人差し指なんか、鉛筆の持ちすぎで痛いくらい。こんなにがんばったんだもの、一時間くらい見たっていいじゃない。ごほうびよ、ごほうび。そうしたら、もっとやる気になるかもしれないし!)
甘い考えが、マジメな考えを押し出す。
(そうね、一時間だけだもの。見ちゃおっと!後でがんばればいいのよ!)
私は片づけもそこそこに、椅子から勢いよく立ち上がった。
 しかし、ハッとして硬直した。天使が『危ない、ドラマを見ちゃダメ!』と叫んでいる。
(錦屋君のドラマ、久々に見るものな。一時間でガマンできるかな?最後まで見たくならないかな?…ううん、たぶん見たくなる。『あとちょっと、あとちょっと!』って言って見ちゃう!)
今度は頭の中に、彼を身ながらウットリしている自分の顔が浮かんだ。
(しょうがない、今回は涙を飲んでガマンしよう。本当に、本当に!成績ピンチなんだもん。全国大会と卒業がかかっているんだもん!ドラマは、テストが終わった後のお楽しみと言うことにしよう)





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