無い物ねだり
(せっかく調子が上がってきたんだもの。テストが終わるまで維持し続けなくちゃ!)
走って五分でアゴや背中、脇の下が軽く汗ばんだが、気にせず走り続けた。
 一時間ほどランニングをして帰るとシャワーを浴び、制服に着替えて朝食を取った。七時四十五分頃家を出ると、八時十五分に学校に着いた。正面玄関にある下駄箱で上履きに履き替えれば、教室へ向かった。
 八時二十八分。新山が片平さんと一緒に登校して来た。二人の姿を見るとまた胸がズキズキし、たまらず視線をそらした。ただ二人が会話を終え、新山がいつものように、みんなに挨拶しようと教壇の前にくれば、私は即座に身構えた。この状態になると、いつ攻撃されてもおかしくないから。
「おっはよー!今日も良い天気だよな。アイツがいなきゃ、気分も最高だろうなぁ」
新山は言うなり、私を見た。
(そら来た!)
「やっぱよ、あの無表情なツラを見ていると、俺の心の中に広がる青空も大雨になっちまうんだよ。マジ、ウザイ」
(あんたの方が、マジでウザイんだよ!)
私は応戦のため、左斜め下から新山をニラんでやった。新山も『望むところだ』とニラみ返してきた。本日の戦闘開始だ。
 とたん、刺さるような視線を感じた。無視しようとするが、あまりにも痛くて出来ない。思わず勝負を止め、視線の主は誰だろうとあたりを見回した。
(へ…?)
考えもしなかった人が私をニラんでいた。新山の彼女、片平奈々である。
 片平はドアを全開にした入り口のドアに隠れ、なぜか敵意をたっぷり含んだ目で私を見ていた。色白で整った顔はやけに迫力があり、とても怖く感じた。
(な、何で?二人は付き合っているんでしょ?新山をイジメているならまだしも、私がイジメられているのに何でそんな怖い目で見るわけ?ワケわっかんないなー)
私は視線をそらすと、再び新山に反撃しようと前を向いた。しかし新山は、すでに窓際の席にいる親友のところへ行っていて、私の事は眼中になかった。肩すかしをくらった私は視線を自分の手元へ落とし、首をひねった。


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