無い物ねだり
 どうにも納得がいかない。机の上で組んだ手を見ながら、最高に複雑な気分を必死に整理した。
(片平さん、もう教室へ行ったかな?)
チラリと横目でドアのところを見ると、片平さんはまだいた。刺すような視線で私を見ている。私は心臓をバクバクさせながら、再び自分の手を見た。視線をどこに向けていいか、わからなかった。
(片平さん、早く自分の教室へ行ってくれないかなぁ。なんか気持ち悪いよ)
これ以上、誰とも争いたくなかった。できるだけ穏便にすませたかった。
 祈るように手元を見続け五分ほど経った頃、おそるおそるドアの方を見た。するともう彼女はおらず、私はようやくホッとした。
 これがさらなる波乱の幕開けだとは、少しも思わずに。
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