無い物ねだり
第八章
 放課後、私はグッタリして机を見つめた。休み時間までフルに使って勉強したため、今にも脳細胞がオーバーヒートしそうだった。日本語をしゃべるのも面倒なほどだ。
(ああ、超能力者になりたい。そうしたら、思っただけで会話ができるもの)
たまらず机におおいかぶさり、目を閉じた。この後またバスケット部のメンバーと勉強会をする予定でいる。私だけじゃなく、みんなせっぱ詰まっているのだ。
 そんなワケで願いは叶うはずもなく、教室の掃除が終わるのを待って教室に入り、メンバーが来るのを待った。今日は私のクラスが会場だった。気分転換を兼ねて、三つの教室を日ごとに回っていた。
(今日は新山もいるけど、気にしないで行こう)
頭のレベルが同じなのか、単純に友達と勉強するのが楽しいのかよくわからないが、新山も親友の進藤や他数人と供に残っていた。彼らは窓際の席に座っているので廊下近くの席にいる私からは遠いが、同じ空間にいるため争う機会は日常と変わりない。案の定、彼はチラチラこちらを見ては『ヤな感じぃー』とボヤいていた。
(気にしない気にしない。できるだけ見ないよう無視しよう)
机の上に教科書とノートを広げると、苦手な数学の問題を解きにかかった。これでいくらか気にせずにすむ。
 間もなくして誰かが前の入り口のドアをノックした。見れば、ともに勉強をする予定の女子バスケット部員達だった。
「お待たせ、涼ちゃん。さ、やろうか!」
「うん、そうだ…」
私は突然言葉を詰まらせた。五人の女子バスケット部員に続き、片平奈々も入ってきたのだ。
 予想外の人物登場に、私は硬直した。しかし片平はこちらをチラリと見て不敵に笑うと、新山のすぐ側に座った。そして彼によりかからんばかりに体を寄せた。
 ふいに私の全身の血が沸騰し、体中を駆けめぐった。同時に、頭の中に爆発するほどの怒りがこみ上げた。片平を殺してやりたくなった。フラれた腹いせとばかりに殺してやりたくなった。
 ただ、新山はなぜか硬直した。自分の彼女が来たのに少しも笑うとしない。私を見れば、気まずそうに視線を泳がせた。
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