無い物ねだり
バスケット部員達は、口をとがらせニラんだ。バスケット漬けの毎日を送り、恋愛の『れ』の字にも染まれない彼女達は、恋人がいる片平がうらやましくてしょうがないのだ。
「まあまあ!みんな、私達も勉強始めよう。時間がもったいないし」
「えっ!あ、そ、そうだね」
私は風亜の一言にようやく硬直を解くと、新山達のように机を向かい合わせに六つくっつけ、数学の勉強をし始めた。しかし今イチ集中力とやる気にかけた。私と風亜以外のメンバーは片平の話し声や態度にイチイチ反応し、文句を言いまくっていた。よほど頭にきたようだ。
 いや、声には出さなくとも、私もイライラしていた。
(さっきのあの嫌な笑い、私に向けたような気がしてならない。たぶん、朝、新山と登校して来て分かれた後、私と新山がモメているのを見て『楽しそう、私もイジめちゃおう』って思ったんだ。腹立つなぁー!おまけに『いいでしょ、彼氏』って目をして。イヤーな女!新山も新山よ。アンタにイジめられているのに、なんで彼女にまでイジめられなきゃならないのよ。信じられない!止めなさいよ!わかっていて共謀しているのなら、アンタ最低!よーし、こうなったら試験が終わった後、片平さんに文句を言ってやる。そして、絶対やめさせてやる。このまま泣き寝入りなんてゴメンだわ!)
私はチラリと片平と新山の背中を見た。二人は仲良く並んで座り、楽しげに勉強しているように見える。見ていたら、一人でイライラしているのがバカらしくなってきた。そして、もっとハラが立った。
 あまりにもハラが立ったので、二度と私のクラスで勉強会を開かない事にした。他の部員達も片平の態度にハラを立てているので、文句を言わないだろう。さすがの風亜さえも。
 するとふいに、さきほど見た新山の困惑した顔が浮かんだ。
(何であんな顔をしたんだろう。今、仲良さそうに勉強しているのに…片平さんが二人の仲を見せつけたの、イヤだったのかな?)
新たな疑問の登場に、問題を解く手が止まった。どうにもひっかかってしょうがない。


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