無い物ねだり
第九章
「よかったぁー。みんな赤点一つも無かったんだね!」
「これも勉強会のおかげだよ。本当に、ありがとう!」
期末テスト終了から四日後、勉強会を開いたメンバー六人は、更衣室で着替えをしつつ結果を報告しあった。努力の甲斐あって、全員赤点は一つも無かった。夏休みは補習を受けずにすんだ。
(これで錦屋リョウ君のドラマ、たっぷり見れるぞ。ヤッターッ!)
私はニコニコしながら着替えをすませた。今日の部活は久々に清々しい気持ちで望めそうだった。
 結果は監督の恩田先生にも届いたらしい。あまり笑うことがない彼女が、めずらしくはっきりと笑っていた。
「今回も部員全員が無事テストをクリアーしました。成績の善し悪しはさておき、これで練習に打ち込めます。全国大会まで二ヶ月を切りました。集中していきましょう!」
「はい!」
開始前のミーティングでゲキが飛ぶと、やる気と集中力が高まった。
 久々にボールを使っての練習は楽しかった。また、自主トレで欠かさずランニングをしたおかげで、どの練習をしてもすぐにバテず、快調にメニューをこなせた。
(よーし、この調子で全国大会まで行こう!片平さんの態度は気になるけど、大きなトラブルになんないでしょ)
期末テストも無事クリアーし、約二週間ぶりスリーポイントシュートを三本縦続けに決めた私は、怖い者知らずだった。有頂天になっていた。二週間前、どん底まで落ちたおかげで、完全に吹っ切れたらしい。
 その頃、新山と片平は、人気のない教室で真剣な顔で向き合っていた。話しを聞かれたくないのか、熱いのに窓を全部閉め、前後のドアもピッタリと閉めていた。新山の額には、うっすらと汗が光っていた。
「この間の事、まだ怒っているの?」
「いいや」
「じゃ、部活サボってまて話しをしたい事って何?」
「・・・」
「早くして。私、これからバレエのレッスンがあるの」
「ああ、わかっている。片平さんの重荷になるような事はしないよ」


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