無い物ねだり
新山は少しも笑わず、ハアと大きなため息をついた。視線を泳がせれば、机の上で組んだ手を強く握った。
 片平は挑戦的な視線の中に、少し不安をにじませた。学校中の男子をトリコにしている美貌も、くすんだように見えた。
「新山君、話しって何?」
「…ハラに、漆原に関わらない方がいい」
「関わっていないわ、まったく」
「関わっているだろ、ここ十日間くらい。登校してきたら漆原の様子を教室の入り口のドアに隠れてじっと見ていたし、部活がテスト前休みに入った時も、勉強会をやっている時も、呼んでもいないのに漆原がいる時に限って混ざってきた。そして見せつけるよう、わざと俺に絡んだ」
「だから、謝ったでしょ。しつこいわね!」
「漆原は強い奴だ。このままだと必ず反撃されて痛い目に遭う。もう止めた方がいい」
「関わっていないのに、反撃されるわけがないでしょ。それなのに、もし漆原さんが言いがかりをつけてきたら、トコトンやり合うわ。絶対、負けない」
「片平…」
「大丈夫。漆原さんは体が大きいから強そうに見えるけど、本当に強いのは私よ」
「・・・」
「新山君の分も私がやる。彼女をグゥの音も出ないくらい、たたきのめしてやるわ!」
「そこまでしなくていい。…できるなら、何もしなくていい。ほっといて欲しい」
すると片平は突然押し黙った。沈黙した。
 新山は視線を外すと、ハアと再び大きなため息をついた。そして、片平を見た。見れば困ったように眉間にシワを寄せていた。
 片平は悲しそうな顔になった。魅力がガクッと落ちた気がした。
「そんな顔しないで、新山君。漆原さんが嫌いなんでしょ?だから、いつもイジメているんでしょ?私がたたきのめすって言ったら、もっと応援してよ!」
「あえて嫌な役をやらなくていい。片平さんは『俺の彼女じゃない』んだから」
「じゃあ、漆原さんに関わらないで。新山君が止めれば、私も止めるわ」
「関わってないだろ」
「イジメも立派に関わっているって事よ。だから、イジメさえもやめて。彼女を無視して。あんな女、いないと思って生きて!」

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