無い物ねだり
 しかし、平穏な日々は続かなかった。終業式の日、帰りのホームルームが終わると片平に呼び出されたのだ。
 ただ、一度話し合おうと思っていたので、チャンス到来と言えなくも無かった。
(絶対、勝つ!)
勝負するからには勝ちたいので、教室を出る時こっそり気合いを入れた。
 呼び出された場所は、体育館と校舎をつなぐ連絡通路の側。人通りの少ないそこは話し合い…いや、決闘の場所としては定番だろう。
 もちろん、彼女が呼び出した理由も大方察しがついていた。
(たぶん、新山君の事だろうな)
呼び出された場所へ行くと、すでに片平は待っていた。白い肌に赤いリップグロスをまとった彼女の唇は、今日もとても女の子らしかった。アイドル並に大きな目が射るような視線を投げていなければ、雑草がはびこる中で仁王立ちしていなければ、素直に『可愛い』とほめたいほどだ。
「で、話しって何?あと一時間で部活が始まるの。とっとと話してくれないと、お昼ご飯を食べられない」
「私の話よりランチの方が大事ってワケ?…ハッ、ムカツク。絶対、簡単になんてすませない」
「いやよ。片平さんにとってはお昼ご飯より大事でも、私にとってはそうでないの。バスケットはすごく走るスポーツだから、ちゃんと食べないと最後まで体力がもたない。だから、とっととすませて」
「まあ!頭悪いし、顔はブスだし、背は無意味にデカいのに、ヘリクツ言うのは上手なのね」
「ええ、そうよ。勉強はできないけど、自分を守るために必死に知恵を絞るわ」
片平は鼻でフンッ、と笑った。つくづく嫌な女だ。彼女の言うことにイチイチ反応していたらキリがないので、私はあえて無視した。
「あなたの顔をよく見ていたらブスすぎてどんどん腹が立つわ。このままじゃ美容に良くないから、とっとと本題に入るわ」
(よく見てもブスで悪かったわね!)
「新山君に、かかわらないで」
(やっぱりね!)


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