無い物ねだり
「とにかく、転校しなさい」
「何で片平さんにそんな指図されなきゃなんないのよ!」
「私の方が頭が良いからよ。第一、その腕もっと磨きたいでしょ。ちょっとバスケをかじった素人教師にならうより、お金をかけて呼んだ敏腕コーチに習った方がもっと上手くなるわ。それこそ、プロも夢じゃないんじゃない?」
「この学校がいいの。ここの部がいいの。監督を尊敬しているの。同級生が好きなの!いくら条件が良くても、ここ意外の部なんて考えられな…」
「うるさい!あなた、目障りなの!どっか行け!」
「・・・!」
片平は炎のような怒りを瞳にたたえ、叫んだ。
「たとえイジメだとしても、私以外の女に新山君が執拗に絡んでいるのを見ると、無性に腹が立つの。許せないの!」
「・・・!」
「彼には私だけ見て欲しいの。私にだけ声をかけて欲しいの。私にだけ触れて欲しいの。できるなら、お母さんとだって関わって欲しくない。先生とだって。ううん、コンビニの店員にだって!」
「そんな、お母さんや先生まで…おかしいよ」
「彼は私の男なの。あなたにとやかく言われる筋合いはないわ!」
「じゃあ新山君に『イジメはやめて』って言って。私、新山君の事、何とも思っていないから」
ふいに、ズキッと胸が痛んだ。本当はまだ新山が好きだから、『何とも思っていない』と言うウソが心につき刺さった。
(顔に出ませんように。出ませんように…)
私をニラんでいる片平は特に表情を変えなかった。こちらの動揺は気づいていないらしい。
「そんな事、とうの昔にやったわ。私、頭が良いから。私が『漆原をイジめているのを見ると、腹が立つから止めて』って言った。新山君が止めるなら私も止める、とまで言った」
「そう…」
「でも、止めなかった。それどころか、あなたから反撃されるからヤメロって言った」






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