無い物ねだり
第十一章
 夏休みに入ると、毎日朝から晩までバスケット漬けだった。さらに、普通に練習するだけでも大変なのに、休みを利用して全国からやって来たライバル校の偵察隊が目を光らせる中、暑さと戦いながらいつにも増してハードな練習をこなした。おかげで身も心もヘロヘロ。お風呂上がりにテレビドラマを見ているうちに眠ってしまうほどだった。
 ただ、精神的には充実していた。練習を重ねれば重ねるほど、シュートもパスもどんどんうまくなっていく。スリーポイントシュートはスランプ前より入るようになり、苦しんでいたのがウソのようだった。
 なにより、新山や片平にほとんど会わないのが良かった。会わなければモメることも、しかけられる攻撃を無視する事もしなくていい。全神経をバスケットに集中できる。
 終業式の後、片平に無茶を言われてから、たった二十分だが言われた通り新山の攻撃を無視した。教室へご飯を食べに行ったら、親友の進藤と弁当を食べていたのだ。
 すると『どうやったら、あんなに笑わないでいわれるんだ』だの、ここぞとばかりに嫌味を言われすごくムカついたが、いつどこで片平が見ているかわからないので、グッとガマンし無視した。そうしたら攻撃はさらにエスカレートし、再びイライラが最高潮に達した。もちろんそれでも反撃はせず、黙々とお弁当を食べた。
 お弁当は、ほとんど味がしなかった。卵焼き、ウインナー、ミニトマト、大好きなふりかけごはん。形と色を見て想像するだけ。怒りのあまり何もわからない。胃もすごく痛い。最後は気持ち悪くなり、吐きそうになった。
 一緒にいる二十分が、とても長く感じた。彼らが昼食を終えて出ていけば、心底ホッとした。胃の痛みも吐き気も収まった。残ったふりかけご飯の味が、妙においしく感じた。
 あんな思い、二度とイヤだった。
(このままじゃダメだ。このまま泣き寝入りしたらいけない!大会が終わったら二人を呼び出して、必ず決着をつけよう。それまでの辛抱よ!)
私は固く誓いを立てた。


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