無い物ねだり
 しかし夏休みに入ってから二人に会う回数は激減した。新山は部活をするため朝登校して来た時、グラウンドのそばで見かけるだけだし、片平にいたっては、チラッとも見ない。秀才の彼女は補習を受けなくていいだろうし、部活もやっていないから、来る必要がないのだ。
(いや、来ているかもしれない。私が部活をしている最中、大好きな彼氏の活躍を見に!)
夕方七時。部活がやっと終わり自宅へ帰ろうと自転車に乗ったら、突然ヒラめいた。意地悪な彼らのツーショットを思い浮かべると無性に腹が立ったが、探偵みたいな発想にちょっと良い気分になった。
 それと同時に、少し悲しくもなった。まだ失恋の痛手は癒えていなかったから。
(この分じゃ二人との話し合いは、九月頭くらいになるだろうな。でも大会が近い今、モメずに練習できるのはとてもいい。争うのって、すごく気力と体力を使うもの。そう考えると、かえって都合が良い)
『どうか全国大会が終わるまで静かな生活が続きますように』と願った。それほど全国大会にかける、打倒T大附属にかける思いは強かった。
―しかし、願いはどれほど願っても届かない事がある。―
私に課せられた試練というドラマの幕が、今開けようとしていた。




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