無い物ねだり
第十二章
 今年の全国大会は、八月下旬、北海道で開催される予定になっている。北海道はすでに二学期が始まっているが、しかたない。公欠扱いで出場する。
 札幌市H区に建設されて間もない総合体育館が、その舞台として選ばれたのだ。交通のアクセスが良く設備が整っていて規模も大きいそこは、世界各国のプロ選手が集うバレーボールの大会や、大きな剣道の大会などにも使われている。もちろんバスケットの試合にはもってこいで、プロの選手と同じ場所に立てるのかと思うと、知らず知らずのうちに興奮した。
 会場にほど近い私の学校は移動時間を取られないため、大会前日までみっちり練習できた。会場の視察に行ったとしても、取られる時間は数時間。全国から集まって来る他校に比べると、かなり有利な状況だった。
 大会前日。偵察に来た全国のライバル達の鋭い視線が注がれる中、我が部はいつも通り練習メニューをこなした。名だたる強豪校の視線は、ほぼレギュラーメンバーを捕らえていて、特にキャプテンの村井は、穴があきそうなほど見られていた。
 いや、私に集まる視線も多かった。
―あの子、昨年大会でバンバン、スリーポイントシュートを決めた漆原よね?―
―ええ、そうよ。身長はそれほど高くないけど、巧みな動きで並み居るライバルから山ほどゴールを奪ったの。今大会も、要注意人物の一人よ。―
―そうね。…でも、私達の方がもっと上よ―
―確かに。血を吐きそうなほど毎日練習したんだから―
―そう、勝つのは私達―
―私達が優勝するのよ―
同じ制服を着た女子生徒が一方の女子生徒の耳元へささやく。そんな様子を見るたび、そう聞こえてきそうだった。
 だから私は、あえてスリーポイントシュートを撃たなかった。本番で度肝を抜いてやるつもりだった。
(今の私が撃つスリーポイントシュートは、昨年の比じゃない。さらにレベルアップしている。大会ではじゃんじゃん撃って、完全勝利してみせる!)




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