無い物ねだり
休憩の間、ライバル達を横目で見ながら思った。どん底からはい上がったおかげで、多少のプレッシャーに動じなかった。
 そして、とうとう全国大会当日はやって来た。
 朝、全ての支度を終えて家を出ると、空は雲がかかっていながらも気温は高く、ところどころ青空が見えていた。雲の隙間から差し込む光はとても明るく、戦いを応援してくれているかのようだった。
(よーし、がんばるぞー!)
私は胸の前で拳を作ると、こっそり『よし!』と言った。
「涼、遅れるわよ。早く乗って!」
「うん!」
母の運転する赤い軽自動車に乗ると、早速会場へ向かった。学校には寄らない。会場へ直接行き、割あたっている第四控え室に集合することになっていた。
 会場はメインの体育館ではなく、市内から少し離れた総合体育館だった。ここもそこそこ建物が立派で広さもあるので、大会にはもってこいだった。
 私は会場へ向かう途中、腕を組んで目をつぶると、昨日の午後四時からメインの総合体育館の大会議室で行われた開会式を思い起こした。
 今大会は地区大会の激戦を勝ち抜いた精鋭24チームが、火花を散らす事となった。厳しい戦いを勝ち抜いてきただけあって、どのチームも強そうに見える。
(弱気になっちゃダメ!うちのチームは二年連続準優勝したんだ。強気で行こう!)
わが校の名前が印刷されたプラカードを持った女子中学生の後ろに並びながら思う。『気持ちで負けたら、実際の勝負でも負ける』。ミニバスケット時代からイヤと言うほど痛感して来た。今回も変わらないだろう。
「なんか、みんな強そうに見えるねー」
「本当。いつもながらこの瞬間イヤだよね」
すると私のポジティブな発想を打ち砕くよう、後ろに並んだメンバーの田中と井川が小声でささやいた。私はガッカリして振り返り二人を見た。
「そんな事言っていたら負けるよ」
「わかってるけど、なんだか黙っていられない」
「私も!プレッシャーに押しつぶされそう!」






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