無い物ねだり
最後は顔を見合わせ『ねぇ』、とおばちゃんの井戸端会議よろしくハモった。
(ダメだこりゃ)
私はあきれて前を向いた。見飽きた村井のつむじを見ている方がまだマシだった。
 そんな時、心臓に矢を突き刺すような、あの学校名がコールされた。
「関東ブロック代表、東京都、T大附属中等部」
一瞬、会場内が水を打ったように静かになった。そしてすぐ、その場にいた全員の羨望と嫉妬の入り交じった視線が、開かれた入り口に注がれた。わが校だけでなく、全国の中学生が、はたまた指導陣が彼女達に注目しているのだ。
―全国の覇者であるT大附属中等部の選手達が今どんな状態なのか。少しでも勝つための情報が欲しかった。―
「おぉ…」
入場してくれば、感嘆のため息が漏れた。なぜなら、どの選手も学校名の書かれたプラカードを持った女子生徒より頭一つ分背が高い。キャプテンの堂島に至っては、まるで親と子ほどの差がある。かつ、寸分の隙もない雰囲気を醸し出している。堂々とした立ち振る舞いは、まさに王者だった。
(本当、いつ見ても大きい!)
「あれ?」
すると突然、前に座った村井が小さく振り返った。彼女は疑問を抱いた顔をしていた。
「ねえ、漆原。見たことがない選手がいると思わない?」
「そう?」
確認するためもう一度T大附属の列を見た。すると確かに列の真ん中あたりから見知らぬ選手ばかり並んでいた。
(見間違うはずがない。T大附属とは二回も戦ったことがある。出場メンバーなら絶対覚えている!)
「本当だ、いるね」
「今年の春あたりまでベンチにも入ってなかった子だよね?」
「うん」
「今年はずいぶん入れ替わったな」
「うん。ただT大附属って部員が百人もいるからね。全員の顔は覚えられないよ」
「そうだね」








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