無い物ねだり
村井と私が話し終えるとT大附属は並び終え、他の選手の影に隠れてしまった。もっと見ていたかったのに終わってしまいガッカリしていると、他校の入場アナウンスの声に隠れるよう後ろからヒソヒソ話しが聞こえてきた。
「そう言えばT大附属って、八番と十一番がアメリカ帰りの帰国子女なんだって?」
「そう。さっきどっかの学校の選手が話していた」
チラリと後ろを振り返ると、田中と井川が話していた。周りの学校もチラチラ二人を見ている。気になるらしい。
「転勤か特待生で今年入って来たんじゃないかってウワサでもちきりだった」
「でも、いつ帰国して入部したのかな?」
「今年の春に帰国して入部したらしいよ」
「マジ!T大附属って、全国各地から集まってきたエース級の部員が百人もいるんだよ。普通に一年から入部してもレギュラー入りするのなんて、ハンパ無い難しさだって聞いたよ。それを今年の春来たばかりで入っちゃうなんて、よほど実力があるのね」
「たぶんねぇー」
「うわっ!何か緊張してきた。勝てるかなぁー」
とたん、最前列に立っていた村井が眉間にシワを寄せ振り向いた。
「田中、佐々木、いつまで話しをしているの?いい加減静かにして。恥ずかしい」
「ごめーん」
二人は申し訳なさそうにうつむいた。周りが好奇の目で見ている事にも気づき、恥ずかしくなったらしい。
 しかし私の胸の中はドキドキしていた。さらなる強敵と戦う衝撃と喜びにドキドキしていた。
(いいじゃない、敵として不足は無いわ。キッチリ倒して、卒業に花を添えてやる!)
私は一人心の中で闘志を燃やした。
 その闘志は、翌日である今日にも続いていた。 
 八時二十分に会場に着くと、そのまま割り当てられていた控え室へ入った。控え室には出場メンバーの半分ほどが来ていて、皆、緊張した表情をしていた。交わす言葉も、ふだん比べ少ない。
 恩田先生はメンバーが全員集まるとパンパン!と手を打ち鳴らした。










< 91 / 214 >

この作品をシェア

pagetop