無い物ねだり
「そんなに緊張していたら練習の半分も力を出せないわよ」
「は、はいっ!」
「あなた達は今日まで厳しい練習に耐えてきた。もっと自信を持って。『必ず勝てる』と強気で行くのよ」
「ハイッ!」
私達は大きくうなずくと、本日戦う真豊中学校のプレーやシュートの傾向、それに対しいかに戦うかのすべを、もう一度おさらいした。予選開始の三十分前になれば体育館へ移動し、キャプテンの村井の指示に従ってウォーミングアップした。ウォーミングアップが終われば、一人静かに広いコートを眺めた。
(この予選一試合目、第一クォーターがすごく大事。ここでどれだけキッチリ、しかもポジティブに攻められるかによって、勝負は決まる。悔いが残らないようがんばるぞ!)
試合開始五分前。レギュラーメンバー五人で円陣を組み、今一度戦う意思を確認した。
「さあ、行くよ!」
「よし!」
「必ず勝つよ!」
「もちろん!」
力強くハイタッチすれば、背筋を伸ばしサイドラインに立ち、一礼してコートの中に入った。センターサークルを挟んで整列すれば、緊張感とワクワク感がいっきに高まった。
「これより真豊中学と緑成館中学の試合を始めます」
「お願いします!」
私にとって中学最後の試合が始まった。
 しかし、記念すべき第一試合目はアッサリと勝った。相手チームは今年初めて全国大会へ出場したと言うこともあり、独特の空気感に巻き込まれたのと、経験値の少なさで我がチームに大量点をもぎ取られ大敗した。
 負けた悔しさに涙を流している選手達を見たら、負け続け悔し涙を流していた過去の自分と重なり胸が苦しくなった。勝ったことに罪悪感さえ抱いた。
(ダメダメ!明日も試合があるんだ。ヘコんでいる暇はない。第一、私はあの悔しさをバネにしてここまで来たんだ。彼女達も強くなりたいのなら、乗り越えなくちゃ!)
私は襲いかかってくる黒い影を振り払い前へ進むことを誓った。打倒、T大附属の雪辱を晴らすためにも、立ち止まっていられなかった。
 









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