無い物ねだり
 同日、午後七時。市内にあるコンベンションセンター三階の中会議室で決勝トーナメントの抽選会が行われた。クジを引いたのは、もちろんキャプテンの村井。私と恩田先生は同伴で着いていった。T大附属は先にクジを引いており、出場校24校のうち一番最後を引いていた。
(23番を引いたら、一回戦目であたる。1番を引けば…決勝戦まであたらない。できるなら、とっとと倒してしまいたいから初戦であたる23番を引いて欲しい。神様は果たしてどんな采配をするのだろう?)
いく分、緊張した面持ちでクジを引く村井。クジを取り出した手は、かすかに震えていた。それは緊張から来るものではない。武者震いだ。
 大会主催者は村井からクジを受け取ると、大きく息を吸い込んだ。
「緑成館中学・・・」
村井は息を飲んだ。いや、私も恩田先生も息を飲んだ。そして、食い入るように主催者を見た。
「1番!」
「・・・!」
神はまるで私達の思いをくみ取ったかのように、ドラマティックな日々のお膳立てをしてくれた。
(おいしいトコロを最後に持ってくるのも悪くない。…決勝戦で会おう、T大附属!)
会場を去る時、T大附属の堂島と目が合った。堂島は入場して来た時と寸分違わず堂々とした出で立ちでいた。何者をも恐れていない。
 彼女の目は語っていた。『かかって来いよ。今年もブッつぶしてやる』と。
(いいや、今年つぶされるのはアナタ達の方よ。覚悟しておきなさい!)
私は心の中で叫んだ。できるなら声に出して言いたかったが、彼女も私も強気なので、つかみ合いのケンカになりそうでやめた。
 翌日。第一試合の午前九時三十分に決勝トーナメントの一回戦を、午後一時三十分に二回戦を行った。
 一回戦目の相手は、近畿ブロック代表の大阪府D中学。近畿地区で三本の指に入る強豪校だ。昨年同様、完璧なまでのプレーで苦しめられたが、どうにか勝った。
 二回戦目は、九州ブロック最強のF中学。こちらは五年前、監督が替わってから急激に強くなった。案の定、試合では圧倒的なパスワークでボールをゴールへ運び、かなり苦しめられた。










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