無い物ねだり
「風亜、ありがとう。助かった!」
「どういたしまして!みんな見たいかと思って、張り切って席を取ったんだ」
「うん、すごく見たかった」
「宿敵だもんね。どんな小さな情報でもいいから、変わったことは知りたいよね」
「うん」
話していると、T大附属と、対戦校である中国ブロック代表の広島県・明林館中学がコートで成立した。これまでの試合、T大附属はどのチームも圧倒的大差で破ってきた。予選一試合目など、百十点対十二点でペシャンコにした。
(噂では、帰国子女の一人がガンガンスリーポイントシュートを決めて大量得点をもぎ取ったと聞いた。明林館は守備に力を入れているチームだから、ゾーンで点を取るのは難しいはず。うちも昨年、ずいぶん苦しめられたもの。だとすれば、この試合でもその選手はスリーポイントシュートを決めにくるはず。…つまり、スリーポイントシュートを撃つ選手が帰国子女と言うことになる!)
私は目を皿のようにしてコートを見た。
(スターティングメンバーで知っているのは、センターの堂島と、後は…あっ!フォワードの安田も知っている。昨年準レギュラー入りしていて、試合の後半で出てきたんだ。残りの二人は、良く覚えていないなぁ。…って事は、残りの二人が帰国子女かな?)
『うーん』と小さくうなっていると、左隣から明るい話し声が聞こえてきた。
「さっきT大附属の試合結果見たら、今年は楽に勝てそうじゃない?」
「そうだね。予選一回戦目は百十点対十二点で圧勝していたけど、あとはそうでもなかったもんね」
「打倒、T大附属!なんて熱い目標を掲げて練習してきたけど、そんなことしなくてもよかったかも」
「普通の練習でも十分イケたかもね」
見れば、田中と井川だった。
(あいかわらずノンキだねー。実際見てみたら、そうじゃないかもしれないのに)
すると私の考えを後押しするかのように、試合開始を知らせるブザーが鳴った。私の心臓はドクン!と一度大きく鼓動した。
 センターサークルの中で主審がまっすぐ上へ投げたボールをジャンプして外へたたき出したのは、T大附属の堂島だった。そのボールを追って両チームが左側へ走っていく。左側に明林館が守るゴールがあるのだ。



 








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