無い物ねだり
 明林館は全体的に選手が小柄だが、動きが素早くT大附属のパスの流れも良く読んでいる。そのためT大附属はなかなかゴール下へ入っていくことが出来ず、苦戦していた。
(早くもスリーポイントシュートを撃つ?撃たない?)
ヤキモキして見ていたら、T大附属は明林館のガード陣の外でパスを回した。そして後ろで髪を一つに束ねている選手へパスすると、その選手が混み合うゴール下へ半身を差し込みシュートした。
 動きにキレはあったが、なんてことはない平凡なシュートだ。スリーポイントシュートではない。私はガッカリした。
(まあでも、試合はまだ始まったばかりだし。もう少し様子を見るか)
しかし、第一クォーターも第二クォーターも、似たり寄ったりだった。たまにスリーポイントシュートを撃つ選手がいたとしても、噂で聞いたような『ジャンジャン打つ』と言うものでなかった。
(噂はデマだったのかなぁ…)
半分あきらめていたところ、第三クォーターで異変が起きた。
「ねぇ、ちょっと見て。T大附属、選手が四人も交代してる!」
「本当だ。センターの堂島以外、第一、二クォーターと違う選手が出ている!」
点差は四十二点対四十八点で接戦だ。明林館のディフェンスに阻まれたT大附属は、追加点を入れることが出来なかったのだ。
「堂島の隣にいるのは、ガードの遠藤で、遠藤の隣にいるのが、フォワードの大島だよね!」
井川が興奮して言った。
「そうそう。あっ!」
「なによ、田中。ビックリするじゃない」
「ゴメン!いやね、昨年も確か試合の中盤で選手を半分以上入れ替えていたと思ってさ」
「そうだね。その時も大島と遠藤が入って、ウチのチームは負けちゃったんだ」
「今いない残りの二人は、今年の春にT大附属の高等部へ入ったんだよね」
「生島ルミと羽田育子でしょ?高校でもめっちゃ活躍しているらしいよ」
「…って事は、見覚えのない二人がアメリカからの帰国子女?」













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