無い物ねだり
田中の言葉に私の全身の血がざわめいた。噂の二人がコートへ入る時、ギャラリー席を振り返り目が合った。彼女達の目は不敵な輝きをたたえていた。何かとんでもない事が起こりそうな気がした。
 そして、予感は的中した。第三クォーターが始まると、帰国子女の二人は鮮やかなパスワークとシュートで、明林館から大量点をもぎ取った。特に青山カエデは十本以上のスリーポイントシュートを決め、チームに勝利をもたらすきっかけを作った。 
 見ていた私達は、試合の一部始終を呆然と見ていた。見終わればドッと疲れが出た。
(…昨年の比じゃない。格段に進化している。強くなっている!)
ショックだった。昨年撮った全国大会のビデオに写るT大附属の実力を上回るよう努力して、実際上回った。だから、今年こそ勝てると思った。
 それを帰国子女二人の加入で、あっさりと巻き返されてしまった。
―このままでは、T大附属を倒せないと思った。また、悔し涙を流すことになりそうな気がした。屈辱的な記憶を胸に刻み、卒業しなければならないと思った。―
(イヤ…そんなのイヤ。絶対にイヤ!)
私は心の中で絶叫すると、椅子から立ち上がった。すると周りにいた部員が驚き、ビクッと体を震わせた。
「どうしたの?漆原」
「ゴメン…ただ、このままだと今年もT大附属に負けると思って。なんとかしなきゃと思って」
「私もそう思う。今日、何もしないでなんて帰れないと思う」
「村井!」
「私も!ビデオは撮っていないけど、試合は目に焼き付けたからいくらでもデータは出せるよ」
「風亜!」
「私も!帰国子女の、スリーポイントシュートを撃っていない方の選手の動きはすっごい見ていたから、こまかい事まで話せるよ」
「井川!」
「漆原、この後学校へ帰ってミーティングしない?少しでも勝てるよう努力しようよ!」
「うん!」













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