無い物ねだり
 映像で改めて見たT大附属は少しも非の打ち所が無いほど上手く、『今年も負けそう…』と言う空気が一瞬立ちこめた。それを、キャプテンの村井を筆頭にレギュラーメンバーが冷静に分析し、改善点を指摘する事で打ち破った。『絶対に負けない!』と言う気迫を見せた。
 結果、ミーティングは一時間半にも及んだ。しかし全員の顔に疲労感は見えず、ヤル気に満ちていた。
「以上でミーティングを終わります。長い時間、お疲れ様でした」
「ありがとうございました!」
「今日はゆっくり休んで明日に備えて下さい。それでは解散します!」
部員は再度礼をすると、後ろに座った一年生から部屋を出て行った。部屋の中はどんどんすっきりしていった。
 しかし、出場メンバーは誰一人として帰ろうとしなかった。全員、同じ思惑を抱いていた。顔を見合わせれば、肯定するよう大きく頷いた。
 私は代表するよう立ち上がると、ビデオを片づけている先生の側へ行った。
「あら、何?まだ良い足りない事がある?」
「練習したいんです」
「ハードな二試合をこなしたのに?元気ねぇ。やっぱり若いっていいわ」
「出場メンバーは全員残ります。T大附属を意識してぜひ練習したいんです」
「私からも、ぜひお願いします!何もしないでいたら、きっと負けると思うんです!」
「このまま三年間負けっ放しなんてイヤです!」
「今年は絶対優勝したいんです!」
「お願いします。練習させて下さい!」
みんなで頭を下げた。全員、同じタイミングだった。
「…わかったわ。ただし、一時間だけね」
「はい、ありがとうございます!」
「時間は厳守よ。今日やりすぎて疲れが取れなかったら、明日T大附属と戦う前に準決勝で敗れてしまうから。そうしたら元も子も無いわ」
「はい!」
私達は笑顔で視聴覚教室を飛び出した。さっきまで体に鉛のように貯まっていた疲れもどこかへ吹き飛び、すっかり元気になっていた。
 すると体育館へ行く途中、正面玄関の前で風亜達に会った。












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