Rusting rail <短>



今、アナタの瞳に映る景色が、この場所から見えているものじゃないと、

私は、アナタと同じ時間を共有できない。




……あぁ。

アナタはもうすぐ居なくなるんだ。


アナタには、忘れられない景色がある。

捨てられない、アナタにとっての日常がある。



大きなビルや、巨大な交差点。

息が詰まるほどの人の群れ……


どれもこれも、私だけが知らないものばかり。



アナタだけの世界――



アナタは、この町がスキだと言った。



虫の鳴き声が、どこまでも響き渡るような風景。


月明かりが創り出す夜の道。


作為のない時の流れ。


喧騒とは離れた、静かで落ち着く空気。



いつまでもここに居たい。

……私と。



そう言ったアナタの言葉に嘘がないのもわかっているけど、

本気の想いで言ったのではないということも、ちゃんと知っている。


アナタにとって、それはただの願望で。

単なる気まぐれでしかなくて。



だから……


私たちにはもう、

“またね”と手を振る明日はない――


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