ドルチェ
しばらく唸っている北垣くんを観察して、悩んでいるところがおかしくて冗談交じりに


「好きな人がこのクラスにいるんですか?」


と聞くと、がばっと起き上がって頭を左右に激しく振ると


「違う、それは、絶対に、ない!!
こ…今後のため、だから、うん。そうだ」


それだけ私に言うと、一人で頷いて先生の観察を始めた。


絶対に嘘だ。と言いたいのを堪えて自分の中にとどめる。


ふと、時計を見ると10時13分をさしている。まだ自己紹介が最後まで行っていないようだけれど、流石に時間的にまずいはず。


先生をちらりと見ると、全く気づいていない。


「…せん」


「桜田せんせー!時間、ヤバくないですかーぁ?」


私の声にかぶって汐奈の声。きっと時計を見ていた私に気づいたんだろう。
さっきの紹介のときの質問といい、なんとなく汐なの性格がうらやましく思う。


先生は時計を何度も見るとものすごく慌てて「崎本、ありがと」と声を掛けた後に


「番号順に廊下にすぐ並んで!」


他の4クラスはすでに入学式が行われるところに行ったみたいで静かだった。


先生は相変わらず慌てたままで、なんとなく並んだのを確認すると


「ホントはダメだぞ!でも今日だけは特別だ!」


そういうとスーツのジャケットを着ながら走り出して、それに連なって全員が一斉に廊下を走り出した。
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