ドルチェ
向かう先はもちろん入学式のある場所。


階段をいくつも駆け下り、廊下を駆け抜け、通用口を抜け、コンクリートの上に置かれたすのこを大きな音を立てながら走ってたどり着いた。


『公立 浜岡高等学校 体育館』


ふうっと先生が息をつくと、きっと同じ一年で担任を持っているんだろう。
黒いスーツに白い花のコサージュをつけたおばさんの先生がフレームのない眼鏡のふちを上げながら桜田先生に近寄った。
化粧が異様に濃い。
たるんだ肌に厚く塗りたくられたファンデーション。
薄い唇に何重にも塗られた紅い口紅。
一重まぶたの上にたっぷり乗せられた青のアイシャドウ。


典型的なオバサンメイクに、私だけでなく、桜田先生も一歩後退したようだ。


「桜田先生?入学式に遅刻ってどういうことですか。何を考えてるんです?
これだから若い新任の先生は…」


小言まで典型的なオバサンだ。


はぁっとおばさん先生がため息をつかれた桜田先生に目をやると。
一瞬めんどくさそうな顔をして、「すみません」と頭を下げた。


「すみませんで済むこととそうでないことがあるんですよ。
本当に分かってるんですかねぇ」


どこの小姑だよ。


桜田先生はまた小さく頭を下げた。
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