桜×恋


「一日ぶりの感動の抱擁とかないの?」


男はベンチから立ち上がって、やれやれ、って感じの微笑みを私に向けた。


あるわけないじゃん、そんなの。


私が無言で睨むと男は肩をすくめた。


「触っておいて触らせないって酷い」


「意味、わかんない」


伸びてきた手を自分のそれで掴む。


「けち」


「いーから質問に答えて」


そう言った私を男は正面から見つめてきた。


私も負けじと睨み返す。


真っ黒な瞳は吸い込まれるように深くて、少し怖い。


でも次の瞬間、そんな怖さなんて微塵も感じさせないほど

男は綺麗に微笑んだ。


< 24 / 41 >

この作品をシェア

pagetop