桜×恋
「一日ぶりの感動の抱擁とかないの?」
男はベンチから立ち上がって、やれやれ、って感じの微笑みを私に向けた。
あるわけないじゃん、そんなの。
私が無言で睨むと男は肩をすくめた。
「触っておいて触らせないって酷い」
「意味、わかんない」
伸びてきた手を自分のそれで掴む。
「けち」
「いーから質問に答えて」
そう言った私を男は正面から見つめてきた。
私も負けじと睨み返す。
真っ黒な瞳は吸い込まれるように深くて、少し怖い。
でも次の瞬間、そんな怖さなんて微塵も感じさせないほど
男は綺麗に微笑んだ。