闇夜の数だけエゴはある
一触即発。

まさにそんな空気を一気に弛緩させたのは。

「ほらほら、長話は校門を潜ってからにしろ」

パンパンと手を叩く一人の若手教師だった。

野須平誠。

琉羽爾亜学園の教師。

甘いルックスと人懐こい性格で、生徒…特に女生徒には人気がある。

一部では女生徒と関係を持っているという噂も耳にするが、実際のところは定かではない。

「杖縁、生徒会長が遅刻だなんて格好がつかないだろ?ほら、出碧も」

ゆるいウェーブのかかった茶色い髪を揺らし、野須平先生が私と杖縁梓の背中を押す。

その瞬間。

「触れるな、狗(いぬ)コロ」

杖縁梓が小さく呟くのを、私は聞き逃さなかった。

当然野須平先生も。

一瞬殺気立ったものの。

「さぁ、他のみんなも急いだ急いだ!遅刻は放課後トイレ掃除だぞー」

彼は何事もなかったかのように、優秀な教師を演じ続けるのだった…。




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