闇夜の数だけエゴはある

そこは、亜吸血種の群れが塒とする廃工場だった。

出碧家、野須平家を除けば、この渡蘭市で最大の勢力。

既に夜も更け、私達はその廃工場へと足を踏み入れる。

武羅人を先頭に、私、梓の順で侵入する。

…敷地内へは容易に入り込めた。

問題は工場内部への侵入だけど。

「何が問題だ?」

工場の大きな鉄扉を前に、武羅人が私の顔を見る。

そして。

「ふんんんんっ!」

両手で扉を押し開ける。

引き戸であるその鉄扉は。

「はぁ…」

私の溜息を掻き消すほどの、金属のひしゃげる音と共に押し倒された。

「武羅人」

私は目の前の大きな背中に言う。

「これでは『侵入』ではなく『突入』です」



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