闇夜の数だけエゴはある
生き残りなど存在しない。

殲滅した亜吸血種の遺体を踏みつけながら、私達は廃工場を後にする。

…ふと、前を歩く梓の背中を見る。

珍しく傷を負っていた。

「らしくないですね、梓」

私はその背中にハンカチを押し当てる。

亜吸血種の肉体は、たとえ致命傷だろうと時が経てば再生してしまう。

この程度の傷など治療の必要すらない。

そんな事は勿論私だって知っている。

だから何故こんな行為をしてしまったのかは私にもわからなかった。

…犬も三日飼えば情が移るという。

その為、名目上とはいえ私の為に体を張る梓に、ほんの少し情が湧いたのかも知れない。

そう、これはほんの気まぐれ。

梓は今でも狗でしかない。

それ故に。

「……」

肩越しに私を一瞥した後、彼女もまたすぐに前を向いて歩き続けた。

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